シリーズ「消費構造の変化と進化するマーケティング」

(2)単身・小世帯の「自助」を助ける商品・サービスへの期待

博報堂生活総合研究所が11月、「生活者が選ぶ2018年ヒット予想」を発表した。その中から消費構造の変化に関連深いと思われるものを拾い上げると、1位の格安スマホ、2位の宅配ボックス、8位の無人レジ、9位のフリマアプリ、14位の見守りサービス、同14位の民泊、17位の時短家電、20位シェアサービス、30位の家事代行などがある。

注目されるのは、既に全世帯の半数以上を占めるようになった単身者・小世帯を助ける商品・サービスへの期待が高いことだ。様々な事情で周囲に頼れない単身者や小世帯の生活者が、自助の支えになる商品やサービスを求めているということが見える。

細分化されて暮らす社会では、身近な人と頻繁に連絡を取る必要がある。生活必需品となったスマホは「格安スマホ」で固定費の削減になるし、「フリマアプリ」で不要品や必要品を売買すれば、家計も無駄も節約できる。日中不在の単身者・共稼ぎ家庭も「宅配ボックス」があれば受け取れるし、仕事帰りの急ぐ買い物で時間を節約出来る「無人レジ」はうれしい。

更に単身者や共稼ぎ世帯にとって家事時間を短縮できる「時短家電」がありがたい。AI付きの掃除機、洗濯機、食器洗機、調理家電、冷蔵庫が家事を並行作業でこなし、自動制御で助けてくれる。どうにも手が回らなくなれば「家事代行」に依頼し、離れて暮らす老親のことは「見守りサービス」が支援してくれる。

人口減少と小世帯化で空き家や空いた部屋が増えるから、「民泊」はインバウンド観光ばかりでなく、国内旅行でも活用が増えるだろう。単身や小世帯では、たまにしか使わない物を所有するのは不合理だ。所有より効用の価値を優先するシェアエコノミーの考え方が普及してきて、住居や車に続いて都市部では、自転車も乗り捨て型の新たなシェアサービスの提供が予定されている。

食料品や消耗品を除けば、一定以上のモノの所有には固執しなくなり、コト消費の方に生活者の需要は伸びている。

NHKのクローズアップ現代(2017.11.20放送)で今年のノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授が、日本の相田みつをの「にんげんだもの」という言葉に邂逅した思いを語っていた。彼の行動経済学の発端は、人間のおかしな購買行動を調べることから始まったという。これまでの経済人モデルでは、人間は常に合理的な判断で購買行動をするとされてきた。しかし実際は、ちょっとした“ナッジ”言わば“ささいな誘導”によって行動を変更するという理論を打ち立てた。彼はナッジによって変わる行動を、それこそが“人間だもの”と立証したのだ。

例えば、松竹梅の3ランクの料理があると、大抵の客は中位の竹を注文する。これは「極端回避性」と言われる行動である。また価値が定まっていない品物に誰かが一端、具体の値段を付けるとその信憑性が不明でも、その価格を基準に考えてしまう「アンカーリング効果」というもの、また自分が所有するものに高い価値を感じ、それを手放す事に心理的な抵抗を覚える心理効果のことを「保有効果」および「現状維持バイアス」と名付けて理論化している。

こうした行動経済学の成果をマーケティングに応用して、利益を伸ばすという試みは、すでに日々新たなマーケティング戦略の中に組み込まれ実践されている。

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コラムシリーズ「消費構造の変化と進化するマーケティング」
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