シリーズ「消費構造の変化と進化するマーケティング」

(6)消費市場で急伸するドラッグストアの戦略

連載の3、4、5回目は実店舗の代表的なプレイヤーである百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストアの環境変化で直面している課題と対応戦略について述べてきた。今回は、いま新たな生活支援店舗として急速に存在感を増しているドラッグストアについて、その動向と戦略について分析してみる。

ドラッグストアの店舗数の伸びが顕著だ。経済産業省の統計によると2018年4月時点で15,300店。調査開始から4年間で2割以上増え、なお記録更新を続けている。そのドラッグストアの成長の牽引力はなんと食品なのだ。

身近なわが家の例で見ても、以前は駅ビルにあるスーパーで買物していたが、半分の距離に出来たドラッグストアで必要な定番食品を買うことが増えた。聞けばスーパーより安値で売っているのだという。ドラッグストアといえば訪日外国人の化粧品や大衆薬の爆買いで話題になったが、特定店舗を除けばそれほどではなく、真の成長要因は国内の消費者がドラッグストアに押し寄せているのだ。

何故、医薬品販売を主力とするドラッグストアが食品を安売りできるのか、疑問を持つ読者も多いだろう。分析してみると主力の医薬品の粗利率は30~40%と高いが単独だと来店機会が少ない。そこでもともと食品は粗利率10~20%で少ないが、「冷凍食品半額」「卵の3割引」等、価格に敏感な食品を値下げし客寄せすることで、来店頻度を増やし高額で利幅のある医薬品を買う機会を増やす戦略があたっているのだ。すでに統計で見るとドラッグストアの販売額に占める食品の割合は、全体の27%まで上昇している。ドラッグストア全体の2017年度の食品売上高は1兆6600億円と、スーパーの飲食料品売上高の2割近くに達し、価格破壊のエネルギーはスーパーの経営をおびやかしつつある。食品の市場自体は伸びていないのだから、スーパーの客がドラッグストアに移動しているということだ。

食品が主力のスーパーが安値に走るには自ずと限界があるが、ドラッグストアは高い粗利益率の医薬品を背景に食品では大胆な値付けで客を引き寄せることが出来る。価格破壊に繋がるこうした傾向に対して、2%物価上昇を目標とする国は、農林水産省が牛乳や乳製品の取引に関するガイドラインをまとめた。一方、公正取引委員会が小売店の納入業者に対する「買いたたき」を牽制する動きを見せて、スーパーの存立を脅かす安値攻勢には歯止めがかかってきた。だが価格に敏感な消費者はすでにドラッグストアに流れているのも事実だ。

成長著しいドラッグストア業界は、大手の店舗数の拡大と同時に中小ドラッグストアのM&Aによる市場シェア拡大競争が激化している。象徴的な出来事として2016年度に22年間売上高で業界首位に君臨してきたマツモトキヨシHDが3位に転落した。トップに立ったのはイオン系のウエルシアHD、2位はツルハHDだ。ウエルシアHDやツルハHDは、積極的なM&Aで売上高を伸ばしてきた。ウエルシアHDは2015年3月にタキヤ(兵庫県尼崎市)とシミズ薬品(京都)を子会社化、2015年9月にCFSコーポレーションを子会社化し後に合併して通年で大きく業績を拡大した。一方、ツルハHDは2015年10月にレデイ薬局を子会社化した。

上位3社の経営戦略を比較してみると、トップに立ったウエルシアの戦略はM&Aを進めると同時に新規出店を増やすシェア拡大戦略である。店舗運営では調剤薬局併設店舗と24時間営業店舗の拡大を積極的に行い、既存店舗の売上を伸ばすというもので、「ドラック&調剤」「深夜営業」「カウンセリング営業」「介護」を柱としたウエルシアモデルの確立を掲げている。2位のツルハの戦略は、M&Aとドミナント戦略に基づく地域集中出店策が基本戦略である。更に既存店のスクラップ&ビルドを積極的に進めている。店舗運営ではカウンセリング販売の徹底、食品等新カテゴリーの導入、プライベートブランドの付加価値化にも果敢に取り組んでいる。3位に後退したマツモトキヨシは、不採算店舗の閉鎖を進めたことで店舗の純増はわずかにとどまった。店舗数の拡大より収益を重視していく戦略で、結果として売上高は上位10社中唯一売上高が減収となった。店舗運営では、かかりつけ薬局化の推進や健康サポート薬局の認定取得等、地域医療への貢献を進める戦略である。「matsukiyoLAB」の新ビジネスモデルでは薬剤師、管理栄養士、ビューティスタッフが常駐し、カウンセリングを通じて地域住民の美と健康をトータルサポートする戦術である。以下、コスモス薬品、スギHD,サンドラック等上位各社も積極拡大策を続けており、市場のシェア争いは今後も激しくなると予想される。

こうした業界内情勢とは別に、生活支援店舗としてのスーパー、コンビニ、ドラッグストアという三業態の「食品」を巡るせめぎ合いは、互いにオーバーラップする業界の浮沈に関わる戦いになっている。互いにどんなマーケティング戦略・戦術を繰り出してくるのか、一瞬たりとも目が離せない情勢だ。

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